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芸術学部がスタートした1994年当初から設置されているデザイン学科は現在、「グラフィックデザイン」「イラストレーション」「映像情報デザイン」「空間プロダクトデザイン」の4つの領域で構成。その中で、編集&デザイン、グラフィックデザイン、ポスト・グラフィックデザイン、グラフィックデザイン&広告、イラストレーション&絵画、基礎造形、映像デザイン、メディアデザイン、インタラクションデザイン、空間プロダクトデザインなど10の研究室に分かれており、細分化の中で学生たちは、専門性を高めながら夢に向かって学んでいます。


今回の訪問先は、イラストレーション&絵画研究室。教授の遠藤拓人先生、准教授の上田風子先生にお話を伺いました。お二人ともデザイン学科の卒業生で大学院も修了されており、教員としての視点だけでなく先輩としての優しくも厳しい視点で学生を指導していました。

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芸術学部がスタートした1994年当初から設置されているデザイン学科は現在、「グラフィックデザイン」「イラストレーション」「映像情報デザイン」「空間プロダクトデザイン」の4つの領域で構成。その中で、編集&デザイン、グラフィックデザイン、ポスト・グラフィックデザイン、グラフィックデザイン&広告、イラストレーション&絵画、基礎造形、映像デザイン、メディアデザイン、インタラクションデザイン、空間プロダクトデザインなど10の研究室に分かれており、細分化の中で学生たちは、専門性を高めながら夢に向かって学んでいます。


今回の訪問先は、イラストレーション&絵画研究室。教授の遠藤拓人先生、准教授の上田風子先生にお話を伺いました。お二人ともデザイン学科の卒業生で大学院も修了されており、教員としての視点だけでなく先輩としての優しくも厳しい視点で学生を指導していました。

第4回 デザイン学科(イラストレーション領域)/イラストレーション&絵画研究室

遠藤拓人 教授・上田風子 准教授

遠藤拓人 教授

セツ・モードセミナー美術科でファッションエスキースとイラストレーションを学びながら、2003年に東京工芸大学芸術学部デザイン学科卒。2005年、同大学院芸術学研究科博士前期課程修了。以降、フリーランスのイラストレーターとして活動。また写真やブックデザインも手がける。2016年、本学デザイン学科助教に着任。2023年より教授。2024年より兼任で芸術学研究科教員。第4回ギャラリーハウスMAYA『挿画を描くコンペティション』MAYA賞をはじめ、さまざまなコンペで受賞。在学中より今日まで、多数の個展開催やグループ展に参画してきた。
http://artakuto.com/wp/

 

上田風子 准教授

2001年、東京工芸大学芸術学部デザイン学科卒。2003年、同大学院芸術学研究科博士前期課程修了。以降、フリーランスの画家として国内外で活動。2018年、本学デザイン学科助教に着任。2021年より准教授。VOCA展2004出品他、複数のコンペで受賞。在学中より今日まで、多数の個展や二人展を開催、またグループ展にも参加して作品を発表してきた。
https://fucoueda.com/

細分化・専門性の高まりの中で
オリジナリティをどのように持つのか考える

イラストレーターや画家になりたい人に絞った研究室

デザイン学科の現況について教えてください


遠藤:現在のデザイン学科には、1つの学年でおよそ180名の学生が所属しており、他学科の2倍あるいはそれ以上の数になります。専門性が細分化する中、「グラフィックデザイン」「イラストレーション」「映像情報デザイン」「空間プロダクトデザイン」という4つの領域で構成されており、はじめからそうした区分けがある前提で学生がより的確な選択をできるようになっています。


1年次は領域横断的に広く学び、その中で学生は自分が進みたい方向性を模索します。2年次は目的とする領域を中心に、他領域も含めて授業を選択し、目標をより明確にします。そして3年次以降、各領域に分かれて研究室に所属し、専門性を深めていくという流れになっています。たとえばグラフィックデザインに興味を持って入学した学生が他領域のデザインに触れて、目標を変更するといったことはよくあります。


イラストレーション&絵画研究室の特徴について教えてください。


遠藤:ここは、学長を歴任された若尾真一郎先生から谷口広樹先生が引き継いだ研究室で、谷口先生が亡くなられたタイミングで私と上田先生とで引き継がせていただきました。研究室の名前の通り、イラストレーターや画家を目指す学生を受け入れています。もっとも特徴的なのは、卒後すぐに作家活動に入ることを前提にカリキュラムが組まれているという点です。3年次、研究室の進路を決める際にも、学生には「そうした前提で来てください」と話しています。


上田:卒業生の仲が良く、横だけでなく縦のつながりがあるのも特徴だと思います。かつての若尾先生も谷口先生も、卒業生との付き合いを長く続けてくださる方々で、先生方が個展を開催すれば、卒業生が集まったり、年に何回か先生を囲んで食事会をしたりしていました。現在においても卒業生の仲が良いのは、若尾先生や谷口先生の教えを受け継ぐことができていることの表れかも知れません。


遠藤・上田両先生の研究室入口の装飾
遠藤・上田両先生の研究室入口の装飾

お2人それぞれイラストレーター、画家として活躍されていますが、どのような経緯でその道へ進みましたか?


遠藤:子どもの頃から、絵を描く仕事をしたいという思いがありました。保育園の卒園アルバムには「マンガ家になりたい」と書いていたようです。高校生のときにイラストレーターという仕事があることを知り、明確に目指すようになりました。その後、セツ・モードセミナーに通いながら、若尾真一郎先生や谷口広樹先生がいる東京工芸大に魅力を感じ、デザイン学科に入学した次第です。


上田:もともと油絵などファインアート系を目指して美術系高校で学んでいましたが、家庭の事情もあり、デザイン学科を選びました。学生の頃にグラフィックアート「ひとつぼ展」 に入選したこともあり、ファインアート系を再び目指すことにしました。若尾真一郎先生と谷口広樹先生はともかく絵を愛していた方々で、「思い切りやりなさい」と背中を押してくださいました。


イラストレーションと絵画の違いとは何でしょうか?


遠藤:画を描く目的や流通している業界が異なるという点です。イラストレーターは基本的にメディアに対して画を提供することが前提で、画家は原画そのものを扱います。学生たちには、「社会に対して今何が必要なのかを考えてアプローチするのがイラストレーターで、アートという文脈において何が必要かを考えてアプローチするのが画家だ」とざっくり説明しています。画家は美術史の中で文脈へのアプローチ、イラストレーターは現代へのアプローチが前提になります。たとえば、道具がパソコンでも油絵でも鉛筆でも、目的がイラストレーションならばそれはイラストレーションになりますし、逆に目的が絵画の文脈にあれば、それは絵画になります。あるのは目的の差であり画柄の差ではない、といったことを、授業で話しています。


まずはオリジナリティありき

ゼミの授業で特徴的あるいはユニークな取り組みはありますか?


遠藤:イラストレーションや絵画の技術的な部分とは異なりますが、プロモーションの仕方ですね。卒後すぐにフリーのイラストレーターや画家を目指すことが前提ですので、どのようなプロモーションを行えば良いのか、個展をするならばどこのギャラリーが良いか、またコンペの応募については、その選び方などをレクチャーし、闇雲に動かないようにアドバイスをしています。


初歩的なところでは、3年生が入ってきたら最初の段階でメールの書き方講座をやっています。フリーとして活動を始めると、おそらく誰も教えてくれませんので、大人として信用してもらえるメールを書けるようにしよう、という考えで取り組んでいます。


上田:私たちもずっとフリーで活動をしてきて、周囲の人たちと話をすると「そういうことを教えてほしかったね」といった話題になることがありますし、他大学の学生からはけっこう羨ましがられているみたいです(笑)。


専門的な部分では、どのような授業や演習、課題を組んでいますか?


遠藤:3年生のゼミでは、基本的に2週間に1回のペースで課題を出し、それを講評するスタイルを繰り返していきます。前期は文芸や文学など情緒に寄った内容で、後期は広告系、パッケージやポスターなどに寄った内容になっています。加えて、フィールドワークとしてイラストレーションやファインアート系のギャラリーに連れて行き、そうした展示会に行く習慣をつけさせています。


4年生は卒業研究で、1年かけて作品を作っていくという流れになります。4年生の最初に「個展1回分のボリュームとクオリティを前提として制作にあたってください」と話をしています。卒業制作展の後、2月以降に個展を開催する学生もいます。もちろん1回の個展で注目されるのは難しいと思いますが、以降のプロモーションの材料にもなり、継続的に活動するモチベーションにもなり得ます。個展1回で満足して終わる学生も、絵画やイラストレーションの道をやめてしまう学生もいますが、我々としては学生たちが卒業した後、業界で生きていくために「地図が読める状態」までは持って行こうという考えがあります。


上田:お互いの講評会を見学し合うなど、できるだけ3・4年生が交流できる機会を作っています。こうした交流によって卒後に現場で会ったときにも話ができたりなど、学びに加えて良い関係性づくりができていると思います。


講評の授業風景
講評の授業風景

学生にまず求めるものは何ですか?


遠藤:まずはスタイルありきで、オリジナリティを持たせることを念頭に置いています。これは若尾真一郎先生の考えを踏襲しているのですが、「まずは社会に通用するオリジナリティを作り出す」というアプローチから始めるようにしています。今の学生は美術系予備校に行ってない割合が高く、そもそもの画力が足りない傾向にあるんです。画力をつけさせることに注力すると4年があっという間に過ぎてしまいますので、並行して画力を高めるトレーニングはやりつつも、まずはオリジナリティだと。これは本来とは逆の進め方ではありますが、意外と良い結果に結びついていて、予備校に行ってないからこそ描く画が一緒くたにならないんです。予備校でしっかり画力をつけると、基礎描写から抜け出せないケースもあり、その点で今の学生たちは基礎描写の沼を知らないので発想が自由なんです。もちろん、デッサンなど基礎がしっかりしている学生もいます。そうした学生には良さを生かすよう指導を行っています。イラストレーションは必ずしも世にいう受験的なデッサン力は必要ではありませんが、画は上手くなければなりませんから、自分のスタイルを見つけたらとことん描け、と。


上田:描写系に長けた学生やデフォルメの効いた画を描く学生などバラエティに富んでいますので、スタイルを決めて集中的に伸ばすのことで、実際に近年はコンペにもよく入選するようになりました。たとえば、玄光社が主催する「ザ・チョイス」には今年になって3名が入選しました。また若手のプロも参加するHBギャラリーのコンペでは、3年生が準グランプリを受賞しました。おそらく最年少だと思います。こうした結果が伴っていますので、我々の方針は間違っていないだろうと。その代わり、割とスパルタ教育になります(笑)。とにかくペースを崩さずに枚数を描いてもらうことを大切にしていますね。その中で学生の個性を伸ばしていきたいと考えています。


所属学生の展示会DM
所属学生の展示会DM

評価されない10年に耐えられるか否か

学生の進路については、どのような感じでしょうか?


上田:イラストレーションや絵画での就職は、基本的にないと言って差し支えありません。ゲーム業界など、業界が違えば画を描く就職先はあるようですが、デザイン業界においてはフリーランスに発注するというシステムが出来上がっていますので、難しいと思われます。たとえば昔の新聞社には専属で挿絵を描く担当者がいるケースもありましたが。。。


遠藤:もちろん人によっていつスポットライトがあたるかは異なりますが、描き続けることができる人は、いつか仕事につながる印象はあります。我々は常々学生たちに「評価されない10年に耐えられるか否か」ということを伝えています。また、10年後だけではなく、死ぬまで仕事ができること。更に言えば、死後も名前が残っていくこと。定年がない仕事ですから、体力や機動力は弱くなっても気力が続けば描くことも続けられます。これは谷口広樹先生が生前おっしゃっていたことでもあります。


上田:かつて若尾真一郎先生は「30歳までガムシャラにやって芽が出なければ潔く諦めて郷里に帰りなさい」ということをよく仰ってましたね(笑)。


普通に就職をする学生もいますか?


遠藤:もちろん普通に就職をする学生もいます。イラストレーターや画家を諦めて異なる分野で就職をする学生、または画を描き続けるために就職を選択する学生もいます。「就職するな」とは言っていませんし、それぞれの目的のために就職を選択することは素晴らしいことだと思います。


上田:3年生の最初に、将来のキャリアについて何歳までに何をするかを図にして考えさせています。ぼんやり過ごしていると、あっという間に大人になってしまいますし、たとえば実家が東京の学生と地方出身の学生とではアプローチも変わってくると思いますので、まずは自分自身がどうしたいのかを明確にすることを促しています。実は私たちは2人とも大学に着任するまで就職をしたことがないのですが、その分、実体験の中から業界や大学の先輩として、具体的なアドバイスをすることができていると思います。


働きながら作家を目指す学生には、どのようなアドバイスをしますか?


上田:やはり、仕事とプライベートの時間が明確で、制作に充てる時間をしっかり確保できる職業や会社を探すことが大切です。たとえばグラフィックデザイナーなどクリエイティブな仕事は拘束される時間も長くなりますので、そうなると自分の制作時間を確保することが困難になってしまいます。また、ジャンルの異なる2つのクリエイティブ業をするのは、やはり厳しいと思いますし、周囲のクリエイターたちからもそのような話を聞きます。そうした厳しい部分も踏まえながら、夢を切り拓いてほしいと思いますね。


文:木下 恵修
写真:影山 あやの

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