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映像学科は1994年の芸術学部1期生入学時から設置されており、現在運営されている7学科中、写真学科およびデザイン学科とともに、もっとも歴史ある学科の1つとなっています。多くの卒業生が、映画やテレビ、CM、マルチメディア、ウェブなどの分野へと巣立ち、活躍しています。今回、劇映画制作を主目的とする映画研究室を探訪。高山隆一教授に、映像学科の目標や映画研究室の特色などについて伺いました。
※劇映画とはフィクション・物語・創作の話を語る映画。

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映像学科は1994年の芸術学部1期生入学時から設置されており、現在運営されている7学科中、写真学科およびデザイン学科とともに、もっとも歴史ある学科の1つとなっています。多くの卒業生が、映画やテレビ、CM、マルチメディア、ウェブなどの分野へと巣立ち、活躍しています。今回、劇映画制作を主目的とする映画研究室を探訪。高山隆一教授に、映像学科の目標や映画研究室の特色などについて伺いました。
※劇映画とはフィクション・物語・創作の話を語る映画。

第1回 映像学科/映画研究室

高山隆一 教授

日本大学藝術学部映画学科、同大学院芸術学研究科文芸学専攻修士課程修了。1998年、映像学科・映画研究室(当時:遠藤三郎教授)の助手として着任。 2013年より教授。教育・研究の中で映画制作も手がけており、最近作に第12回オイド短編映画祭で作品賞に選出された『いってきます』がある。

クリエイティビティだけでなく
社会人としての資質を養い、
映像業界を支える人材を送り出す。

いま、映画は最大の盛り上がりを見せている。

まずは高山先生の専門分野、研究内容について教えてください。


高山:映画制作、映画理論、映画史になります。学部や大学院時代は主に理論系の研究をし、東京工芸大学に赴任してからは制作系にも研究範囲が広がりました。赴任以来、短編の劇映画を数年に1本程度の割合で撮ってきましたので、自主制作映画など小規模な作品や大手映画会社によるものではない作品にも高い関心があり、頻繁に小さな劇場や映画祭に足を運んでいますし、そうしたジャンルの歴史や理論も研究対象としています。


現代は映画会社の助監督採用がなくなっていますが、インターネットや映画祭など自主制作映画を発表する場は増えていると言えますし、そこで評価されることにより、さらなる制作のチャンスに結びつきます。実はいま、日本における年間の映画制作本数は600~700本ありまして、史上最多なんですよ。全盛期と言われた小津安二郎監督や黒澤明監督などが活躍していた1950~1960年代でも、年間500本です。デジタル化によって撮影や編集がかつてと比べて容易になったのも大きいと思います。


高山先生の作品も、現在はデジタルによる制作ですか?


高山:6~7年前まではフィルムも使っていましたが、現在はデジタルですね。パソコンや編集ソフトウェア、撮影機器、録音機器などデジタルデバイスの進化はもちろん、フィルム現像をできるところが少なくなり、またコストもかかるようになりましたので、自然な流れと言えそうです。学生の作品は、芸術学部が中野キャンパスに一元化された2019年からは完全にデジタルに切り替わりました。中でも音声に関しては、デジタル化がもっとも早かった部分です。 ちなみに音声編集を行う工程について、ビデオの分野ではMAと言いますが、映画制作の分野では現在も昔ながらのダビングという言いかたをしています。またダビング室は、劇場に近い音響状態を再現する必要があるため広く作られています。


映画制作は「長距離走」のようなもの。

映画研究室について、特徴や面白いところなどを教えてください。


高山:映画研究室は例年20名程度の学生を受け入れており、2024年度は17人が所属しています。男女比は2:1くらいで、半々くらいの年もあれば、女子が多い年もあります。デジタルの恩恵もあり撮影機材が小型軽量になっているのも、女子学生が増えている理由のひとつだと思います。 映画研究室のもっとも特徴的な点は、全員で1つの作品を作り上げるところです。いくつかの班に分かれて制作する研究室もあると思いますが、私たちの研究室では、およそ20人が役割分担をして1つの劇映画を制作します。進め方は、まず全員にシナリオを書いてもらい、その中から1本を選び、それを書いた学生が監督になります。


なぜそのようなスタイルを採用しているのでしょうか?


高山:映画自体が、それぞれ役割を持った人が集まって制作されるものだからです。監督のイメージを、プロデューサーや助監督、技術などの人々が力を合わせて具現化するのが、映画制作です。また映画を撮るには時間もかかります。学生映画でも10日から2週間くらいの撮影期間を要し、スタジオだけでなくロケ撮影なども含めたさまざまな段取りを記した香盤表に基づいて全員が動きます。比較的短期間で撮影されるCMやPVは短距離走、映画は長距離走といったところでしょうか。


たとえば、ロケ撮影のイメージを決めるのが遅くなると、ロケハンをするタイミングがずれ、キャスティング、衣装などさまざまな連鎖で予定がずれ込んでしまいます。このように、一定期間を個人ではなく団体で行動して作品を作り上げることを体感して、いざ就職をしたときにしっかりと「職業人」として役割をまっとうできる素養を身につけてほしいという思いがあります。


実際に研究室で制作する規模感を一般の作品にたとえますと、300~500万円程度の予算感になります。自主制作ではハードルが高い予算感での制作を経験することは、学生たちにとって貴重な財産になるでしょう。もちろんコストをかけ過ぎない工夫もしています。撮影スタジオに組んでいる部屋のセットは、複数年の使用にも耐えられるように設計。通常の映画やドラマで使用される、すぐに取り壊す前提のセットよりも丈夫に作っていただいてます。



映画撮影スタジオ内に設置されたセット
映画撮影スタジオ内に設置されたセット
ダビング室の機材
ダビング室の機材

その他にどのようなカリキュラムがありますか?


高山:映像学科ができて30年が経ち、一定数の卒業生が業界で活躍しています。映画制作にはさまざまな役割がありますので、それぞれのパートのプロフェッショナルの方、それもできる限り卒業生に特別講義をしていただいています。学生たちが「本物」に触れる機会を設けることで、よりリアルな学びや気づきを得られるものと考えています。


学生にはどのような意識を持ってほしいとお考えですか?


高山:とにかく映画をたくさん見てほしいですね。映画研究室の学生に限らず、自分が進みたい道の先輩たちが残してきた作品をたくさん見ることは、アイデアにとどまらず、困難に直面したときの回避策を得るきっかけにもなります。制作への意欲、姿勢も変わってくるでしょう。 ぴあが主催しているPFF(ぴあフィルムフェスティバル)への出品作品の多くは学生映画だそうです。そうした積極性を、学生には持っていてほしいと思います。


フラットな気持ちで映像学科に来てほしい。

映像学科全体としての目的や教育としては、いかがでしょうか?


高山:いま映像学科には10の研究室がありますが、理論系・制作系にかかわらず、学生には感性の部分だけでなくしっかりと専門的な知識を学んだ上で高い技術も身につけてほしいですね。映画は史上最高の制作数で盛り上がっていますが、ウェブの世界やCGなど、従来の映像の概念が多様化しています。幅広く「映像」の分野で対応し得る人材を輩出することが映像学科の目標です。


映像は、高校までの勉強では学習する機会がありません。つまり多くの学生は、専門知識や技術は持たずに入学します。そうした学生たちを実社会の現場に出ても困らないように教育し送り出すわけですが、私たちはそれを「知のショートカット」と位置づけています。すなわち経験値で得るものを、映像学科で学び体験することで補うという考えです。


また専門知識や技術だけではなく、1人の人間としても成長してほしいとの思いがあります。映像制作においては、ロケーション撮影などで地域社会と密接に関わる場面が多くあります。そうした中で、地主や地域住民の方々への配慮は大切です。たとえば道路の使用許可はもちろん、近隣への挨拶、ポスティングなど、社会人としての真っ当な振る舞いを心がけさせています。外の人から見れば、プロも学生も関係なく「映像を撮っている人」ですので、もし何か問題が起きればこの先、当該の場所で一切の映像撮影の許可が下りなくなることもあります。そうなれば、業界全体の損失にも繋がりかねません。その点で「工芸大の学生はしっかりしている」とお褒めの言葉をいただいたこともあります。


今後も、専門知識や技術以上に、社会人・業界人・職業人として、業界を担っていく学生を育てて行きたいですね。


文:木下 恵修
写真:影山 あやの

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