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2001年、写真・映像・デザインに続く4つ目の学科として設置されたメディアアート表現学科は、2010年にインタラクティブメディア学科に名称が変更されました。メディアアートとはコンピュータを含めた新しいテクノロジーを用いた芸術を意味し、同学科は時代の中で発達・進化を続ける双方向性(インタラクティブ)を持つ幅広いメディアにおけるアートやコミュニケーション表現を学ぶ拠点として、ニーズに対応かつ業界をリードする人材を育成しています。 今回の訪問先は、インタラクティブアート研究室。教授であり本学映像学科の卒業生でもある浅野耕平先生に話を聞きました。

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2001年、写真・映像・デザインに続く4つ目の学科として設置されたメディアアート表現学科は、2010年にインタラクティブメディア学科に名称が変更されました。メディアアートとはコンピュータを含めた新しいテクノロジーを用いた芸術を意味し、同学科は時代の中で発達・進化を続ける双方向性(インタラクティブ)を持つ幅広いメディアにおけるアートやコミュニケーション表現を学ぶ拠点として、ニーズに対応かつ業界をリードする人材を育成しています。 今回の訪問先は、インタラクティブアート研究室。教授であり本学映像学科の卒業生でもある浅野耕平先生に話を聞きました。

第3回 インタラクティブメディア学科/インタラクティブアート研究室

浅野耕平 教授

1998年、東京工芸大学芸術学部映像学科卒。2000年、同大学院芸術学研究科博士前期課程修了。インタラクティブアートを専門とし、第4回ソウル国際メディアアートビエンナーレ、Shanghai eARTS Festival 2007、アルスエレクトロニカセンター常設展示2009-2010(オーストリア)、六本木アートナイト2010、神奈川県立地球市民かながわプラザ(2019,2020)、浜田市世界こども美術館(2013〜)など、様々な形式で体験型作品の展示を多数行っている。2002年、当時のメディアアート表現学科に助手として着任。2020年より現職。

コンピュータを中心とした新しい発想と技術で、
コミュニケーションの質感を探る。

体験型のアートに関心を持ち大学院へ

浅野先生の専門分野、主な研究内容について教えてください。


浅野:メディアアートやインタラクティブアートと呼ばれるジャンルの中で、空間や映像、インタラクションを使った「インタラクティブ・インスタレーション」と呼ばれる体験型作品の制作を得意としています。デジタル技術を駆使するだけでなく、紙吹雪や造花など、アナログな仕掛けを取り入れながら、身体的な対話を生み出す表現を模索しています。また、映像学科の出身ということもあり、スクリーンの中にとどまらない映像体験に強い関心を持っています。


インタラクティブアート、メディアアート、インタラクティブメディアとはどのような意味を持つのでしょうか?


浅野:インタラクティブアートは、メディアアートに含まれる表現分野で、主にデジタル技術を使った対話性のある表現を扱うものです。メディアアートという言葉は定義がとても難しく、さまざまな解釈がありますが、一般的にはコンピュータに限らず、先端技術を使った表現活動のことを指すと考えられています。 一方で、インタラクティブメディアは、パソコンやスマートフォンなどを代表とする対話型メディアの総称です。これは、装置だけではなく、アプリケーションやインターネット上のさまざまなサービスなども含まれています。私が所属するインタラクティブメディア学科では、「CG」「Web」「インタラクティブアート」「サウンド」の4つの分野を主軸に、さまざまなメディアを複合的に扱っています。


浅野先生の入学時、インタラクティブメディア学科の前身であるメディアアート表現学科はまだ設置されていませんでしたが、インタラクティブアートに関心を持ったのはどのような経緯があったのでしょうか?


浅野:私はもともと、映画やドラマの監督になりたくて映像学科に入学しました。その後しばらくしてWindows95が発売されて、大きな話題になったんです。この頃から、コンピュータで新しい表現に挑戦したいとも考えるようになり、当時映像学科で教鞭を執っていた草原真知子先生のデジタル映像研究室に所属して、CGやインタラクティブな表現を学びました。大学院博士前期課程を修了してからは、企業で2年ほど商品企画やゲームエンジンの広報などを経験し、メディアアート表現学科が設置された2年目に助手として着任しました。



 


 


手をかざす角度により異なる音声を発する仕掛けの作品



今できないことをどのように工夫するか。それがクリエイティブ。

研究室の特徴、またどのような指導をされていますか?


浅野:私はインタラクティブアート研究室を担当しています。私自身は「空間と映像とインタラクション」を表現の軸にしていて、デジタルとアナログの双方からコミュニケーションの質感を探るというアプローチをしています。こうした活動の中で得てきた知見を、学生の皆さんと共有することが、一人一人の学びに貢献できると考えています。私は研究者として学生の皆さんに何かを教えているというよりも、表現者として一緒に何かを生み出しているという感覚でいます。 技術や表現手法はどんどん新しいものが出てきますが、それに振り回されないことも大切だと考えています。新しい技術を手に入れると、何かできるようになった気になりますが、それを扱うことで満足してしまって、表現にまで至らないこともよくあります。一方で「技術がないからできない」と言って諦めてしまうのも、よく見かけます。でも、インタラクティブアートは多様なメディアを扱うことができるので、いろんな角度からアプローチして、表現したいことに適したメディアが何かを見極めることが大切です。そして「できないことをどうやって解決するか」というところにこそ、クリエイティビティがあって、そこに面白さや楽しさがあると考えながら、学生の皆さんと向き合っています。


具体的にどのようなアプローチを学生に体験させていますか?


浅野;たとえば、1年生向けの私の授業ではマイクロソフトのパワーポイントとマウスを使って作品づくりをしています。インタラクティブアートの制作をするときは、通常プログラミングや電子工作が必要になりますが、それをいきなり始めるのではなく、誰でも扱えるソフトと身近な装置を使って、まずは「インタラクティブな作品を作るとはどういうことか」を体験してもらう授業です。 パワーポイントは、クリックするとページが切り替わるといったシンプルな機能しかありません。マウスも、どこにでもある特別な装置ではありません。でも、工夫次第で多種多様な作品を作ることができます。こうした体験を通じて、物事を多面的に捉える力を身につけてもらいたいと考えています。


学生による習作
学生による習作

学生の傾向についてはいかがでしょうか?


浅野;いろいろな背景を持った学生の皆さんが入ってきますね。文系・理系どちらもいますし、高校で芸術系を学んでいた人や、情報系や工業系のコースで学んでいた人もいます。こうした、さまざまなベクトルを持った人たちが集まることで、多様な考え方や感じ方に触れられる環境になっていると思います。 創作の方向性についても、3DCGを専門的に取り組む学生もいれば、映像やサウンドとプログラミング技術などを組み合わせた複合的な制作を行う学生もいます。アートとテクノロジーの両側面を学ぶことができるので、各研究室でそれぞれがそれぞれのやり方で「工と芸」の融合を目指しているように感じています。


学生の進路に関してはいかがでしょうか?


浅野;体験型の広告制作や映像制作、システムエンジニア、ゲームプランナー、企業の広報部、アーティストなど、本当にさまざまです。IT業界というのが一つの軸にはなると思いますが、ITに関わる業種はとても多様で、どんどん広がりを見せていると感じます。 分かりやすいところで言うと、万博の演出などでも卒業生が多数活躍していると聞いています。こうした広がりと関連して、近年はデジタル表現の知識を持つテクニカルディレクターという、クライアント、エンジニア、そしてデザイナーの橋渡しをするポジションにも注目が集まっています。そうしたニーズに応えていける学生が、インタラクティブメディア学科にはたくさんいると思っています。


学生たちには、多くの経験の中でそれぞれの「解」を見出してほしい

浅野先生は一人の作家として、島根県の「浜田市世界こども美術館」で展示をされていますね。


浅野 はい、浜田市世界こども美術館では10年以上、毎年体験型の企画展に参加させていただいていて、個人作家として企画ごとにテーマに合わせた作品を出展しています。浜田市世界こども美術館は、市立の地方公共美術館ですが、すごく元気な美術館で、毎年いくつもの自主企画展を実施されていて、島根県の石見地方でも注目されている美術館です。メディアアートにも早くから取り組んでいて、全国的にも珍しい美術館だと思います。こうした活気のある美術館で、学生の皆さんにも展示経験をしてもらいたいという思いがあって、美術館の協力を得ながら、私のキュレーションという形で学生の皆さんの作品も一緒に紹介させていただく取り組みも行ってきました。


学生さんたちにとっては、すごく勉強になりますね。


浅野 これが意外と大変で、こども美術館ということもあって、子供たちの激しい扱いにも耐えられる耐久性が必要です。さらに、頻繁に訪れることができない遠隔地なので、インタラクティブアートの専門家ではない現地スタッフの方でも扱えるようなメンテナンス性を持たせなければなりません。こういった部分は、学生の皆さんにとって、作品を作ること以外の厳しいハードルになっています。でも、こうした授業だけではなかなか伝えきれない経験が、学生の皆さんにとって大きな力になると信じています。


文:木下 恵修
写真:影山 あやの

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