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2003年、国内で初めて※開設されたアニメーション学科は、20余年にわたりアニメーションの理論や制作を体系的に学ぶことのできるユニットとして、多くの卒業生を業界に輩出してきました。現在アニメーション学科には、インディペンデント系、研究、デザインなどの分野で8つの研究室が存在し、学生たちは各々の目標に向かって学んでいます。

今回の訪問先は、デザインの延長線上にあるアニメーションという視点から研究や制作を行っている、アニメーション学科・山中幸生准教授の研究室です。※独立した学科として

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2003年、国内で初めて※開設されたアニメーション学科は、20余年にわたりアニメーションの理論や制作を体系的に学ぶことのできるユニットとして、多くの卒業生を業界に輩出してきました。現在アニメーション学科には、インディペンデント系、研究、デザインなどの分野で8つの研究室が存在し、学生たちは各々の目標に向かって学んでいます。

今回の訪問先は、デザインの延長線上にあるアニメーションという視点から研究や制作を行っている、アニメーション学科・山中幸生准教授の研究室です。※独立した学科として

第2回 アニメーション学科/山中幸生研究室(デザイン)

山中幸生 准教授

多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、キャラクター系のデザイン会社に就職。その後、同大学に戻りアニメーション関連の助手、またクリエイターとして活動。2007年、東京工芸大学芸術学部アニメーション学科に着任。2017年より准教授。学生時代からアニメーションに関心を持ち、卒業制作はアニメーション作品。日本アニメーション協会(JAA)理事・事務局長。ICAF(インター・カレッジ・アニメーション・フェスティバル)実行委員。

国内初のアニメーション学科という矜持で、
日本文化の未来を切り拓く創造拠点へ。

2000年頃から各大学でアニメーション系教育の機運が高まった。

山中先生の専門分野、主な研究内容について教えてください。


山中:グラフィックデザインやイラストレーションをベースに、その延長線上で絵が動いたり、カタチが変化したり、別の意味や観え方が捉えられるようなアニメーションについて、制作および研究を行っています。1960〜70年代のサイケデリックな色彩を活かしたり、歌や音楽や音に合わせたアニメーション制作にも意欲的に取り組んでいます。


学生時代からイラストレーションを動きに変換させることが好きで、また音が合ったときの気持ち良さも含め、作品づくりの上で意識していますね。いわゆる映画や映像作品とは異なる「動きの芸術」と言いますか、絵じゃないと表現できない作品づくりを突き詰めて行きたいと考えています。


大学ではグラフィックデザイン専攻ですが、アニメーションに進んだきっかけは何でしょうか?


山中:大学時代、専門課程に進むときに、イラストレーションの延長の「動く」系としてアニメーションを学べる講座が開講されたんです。デザインや、特にイラストレーション、またそれが動くことに興味がありましたので、アニメーションを選択しました。卒業制作もアニメーション作品です。紙に描いたものを1枚1枚スキャンして、それを編集する方法で制作しました。2000年3月に卒業して就職しましたが、ご縁があり2001年に母校に戻りアニメーション分野で助手を務めてきました。ちなみに、学生時代はDPEで写真のプリントや受付のバイトをしていました。デザインワークにはもちろん、アニメーションは総合芸術なので、現在でもその経験は役立っていると思います。


2000年前後の頃、複数の大学でアニメーションを専門的に学ぶことのできる講座が始まっています。「ジャパニメーション」と呼ばれ、世界の若者たちの間で人気が高まった時代を経て、アニメーションが「さまざまな芸術の中の1つ」として新しいフェーズに入っていった時代だったと言えるでしょう。いわば「若いメディア」なので、皆で底上げしようという機運があったのだと思います。


その中で、大学横断的なアニメーション交流活動にも携わってきたのですね。


山中:はい、2002年にICAF(Inter College Animation Festival)という、アニメーションを学ぶことが出来る教育機関の学生作品を集めたフェスティバルが始まりまして、現在も実行委員をさせていただいています。ICAFは、2001年に幹事校の担当教員で実行委員が組織され、参加校の各教員の推薦により出品され上映されるスタイルで続いています。現在では東京工芸大学、多摩美術大学、東京藝術大学、東京造形大学、武蔵野美術大学が幹事校で、本学は発足当初より運営に携わっています。 なお当時の実行委員長は、東京工芸大学でも教鞭を執られた古川タク先生です。そうした活動に携わりつつ、2003年に国内初のアニメーション学科が設置されていた東京工芸大学に、2007年に着任しました。


研究室にセッティングされた撮影セット
研究室にセッティングされた撮影セット

デバイスの進化により、制作環境も様変わり。

山中研究室、また所属学生の特徴は、どのような点でしょうか?


山中:CMやMV、グラフィックデザイン、イラストレーション、タイポグラフィなどの延長線上としての「伝えるため」に「考える」アニメーション制作が基本です。描画を基本とした作画の作品が多いのですが、立体的なものをコマ撮りする作品を制作する学生もいます。研究室に関係する学生としては3年生と4年生がおり、3年生はゼミ生として、4年生は卒研生として所属します。4年になったときに他の研究室に所属することも可能です。


こうしたアプローチでゼミや卒研にあたりますので、学生たちはアニメーションの知識だけでなくデザインについても知識や思考を養うことができていると考えます。それが、その後の制作や就職活動にも良い影響を与えているのではないでしょうか。昨年度の4年生は新型コロナ禍が始まった2020年に入学してきた学生たちでしたが、特殊な環境でも、とてもストイックに頑張っていた印象がありますし、大手アニメーション会社など様々な企業に就職をしています。それ以前の卒業生についても、商業アニメーションや自主制作作品などにおいて、エンドロールで教え子の名前を見つけることがあります。すごく嬉しいですよ。つい探してしまいます。


新型コロナ禍での授業や実習はどのように行いましたか?


山中:新型コロナ禍では基本的にオンライン授業を実施しましたし、実習もリモートで行うことができました。近年はパソコンはもちろんタブレットやスマートフォンといったデバイスが飛躍的に進化し、それにともなって編集やコマ撮り用のアプリケーションなど優れたソフトが出ています。


2019年に芸術学部の全学科が中野キャンパスに統合された段階で、写真分野でいう複写台のような撮影台を使って1枚1枚デジタルカメラで撮影するといった作業から、iPadに移行していました。その点で我々にもノウハウが蓄積されていましたので、リモート授業でもiPhoneやiPadを用いて作画やコマ撮り、編集などを行うための指導ができたというわけです。いま思えば、良いタイミングでiPadを用いた環境に移行したと言えますね。


もちろんパソコンや一定の大きさのモニターは重要で、学生には、iPadはあくまで1つの道具として考えていてほしいと伝えています。ある程度大きな画面で試写をするからこそ気づくことや、音との関係もありますし、様々なことを人力でやっていた時代もデジタル化以降も、iPadで様々なことができるようになった今も原理は同じですので、そうした基本的な知識や技術をしっかりと理解してほしいとの思いがあります。


マイブリッジシアター。座席表は、元教授の古川タク先生による遊び心満載のイラスト仕様。
マイブリッジシアター。座席表は、元教授の古川タク先生による遊び心満載のイラスト仕様。

シアターなど設備も充実しているようですね。


山中:動く馬で知られるエドワード・マイブリッジの名前を冠した、11.1チャンネルの音響で上映可能な「マイブリッジシアター」を運用しています。ここでは、作品の品評上映を行うだけでなく、学生たちによる映画上映会が定期的に開催されています。2014年に完成した頃から、学生が自発的に始めて、プロジェクターの使い方などを学ぶ機会にもなっています。その他、サウンドスタジオでは録音や音響の確認などができる ようになっています。


サウンドスタジオ(録音ブースとサブ調整室)
サウンドスタジオ(録音ブースとサブ調整室)

近年の傾向として女子学生が増加しているようですが、理由はありますか?


山中:現在、研究室には14名の4年生が所属しており、そのうち女子は8名です。また3年のゼミ生はちょうど半分ずつです。比較的女子が多い印象はあったものの近年はより顕著で、1年生は2/3が女子になっています。明確な理由は分かりませんが、ICAFなどで他大学の先生方とコミュニケーションをした際によく「女子学生が増えているね」という話が出てきます。東京工芸大学に限ったことではないようです。


「アニメ」ではなく「アニメーション」。

アニメーション学科としての教育目標や目的は、どのようなものがありますか?


山中:アニメーション学科には、アニメーターとして人気作品を制作したいとの夢を抱いて入学してくる学生が多くいます。日本のアニメーション作品に憧れを持っている留学生も多くいます。たいへん素晴らしいことですが、1年生には、華やかな世界や商業系の分野だけではなく、作家としてこだわり抜いた作品制作や、学問として研究をすることなど、アニメーションには様々な分野があるということを、しっかりと伝えるようにしています。


一般的には、商業系作品を略して「アニメ」と呼ぶことが多いと思います。ですが私たちは、「命を吹き込む」という意味のラテン語「アニマ」を語源とする「アニメーション」という言葉を、つねに大切にしたいと考えています。研究機関である「アニメーション学科」としての矜持も含め、幅広い視野で思考し、より多くのことを知った上で表現技術やクリエイティビティを伸ばしていってほしいと思います。


文:木下 恵修
写真:影山 あやの

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