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国内外のアートシーンで活躍する卒業生たちを追った連続インタビュー企画。第2回はマンガ学科の第1期生で漫画家の慎本真さん。在学中にデビューを果たした舞台裏や、YouTuberとしても活躍するようになった経緯などを聞いた。

国内外のアートシーンで活躍する卒業生たちを追った連続インタビュー企画。第2回はマンガ学科の第1期生で漫画家の慎本真さん。在学中にデビューを果たした舞台裏や、YouTuberとしても活躍するようになった経緯などを聞いた。

第2回 漫画家/YouTuber

慎本真

1988年、東京都生まれ。マンガ学科第1期生。大学在学中の2009年、「ほほえんで、ミドリ君」でデビューし、第51回LMGゴールドデビュー賞を受賞。 テレビアニメ化された「SSB-超青春姉弟s-」など単行本も多数。 現在は「推しが我が家にやってきた!」をCOMICポラリスで連載中。 YouTubeチャンネル「SS manga diary-慎本 真-」は登録者数83.2万人を数える(2024年6月現在)。

漫画家はエンターテイナーだ!
時代と同期し続ける作者の本音

人気漫画家がYouTubeを始めた意外な理由

<プロ絵師がAIイラストに初心者でも対抗出来る方法見つけたので教えます!>

クリエイターの間で賛否両論が渦巻く「生成AI」に関して、こんなポジティブで刺激的なタイトルのYouTube動画を公開しているのは人気漫画家の慎本真さん(35)だ。動画ではアシスタントたちと即興で絵を描きながら作画のプロセスを披露。一枚絵の中に「キャラクター性とストーリー性」を盛り込む重要性を説いている。

慎本:漫画家って絵を描くだけが仕事じゃないんですよ。大事なのはストーリーとセリフを考えてネーム(下書き)をつくるところ。 絵を描くという点でAIは脅威かもしれないですけど、ストーリーを考える工程はとても複雑です。 まず脳内でストーリーを考え、コマを割り、見せ場は大きなコマに、そうじゃないところは小さなコマにする。 それをページ内に納め、セリフを割り振っていくわけです。 ストーリー性で言えば、読者の期待に添うこともあれば、裏切ることもあるし、それらを作家の感性で微妙に調整するわけです。 漫画家ですら言葉で説明できないこの感覚をAIにどう学ばせるのかと思いますよね。

YouTubeを始めたのはコロナ禍の真っ只中だった2020年。キッカケは「市場調査」の一環だった。

慎本:実は私、それまでYouTubeを見たことがなかったんですよ(笑)。 でも、雑誌か何かに「憧れの男の子がYouTuber」と書いていたのを見て、少女漫画を描く身として「読者の気持ちがわからなくなるのはヤバい」と思ったんです。 そこでYouTubeを勉強しようと。 とりあえず始めたのですが、今度は再生回数が伸びるにはどうしたらいいかを考えちゃって、試行錯誤した結果、初心者向けに漫画の描き方を教える内容になったんです。

いったん「やる」と決めたら徹底してやる性格だという。
とはいえ、作者が顔をさらすことにはいまだに抵抗があるそうで……。

慎本:顔を出してみたら再生回数が増えたんです。親近感もわくのでしょうか。でも、私は「漫画家は顔を出さなくていい」と思っている派。 読者の皆さんにこんな苦行を強いるなんて申し訳ない。だから「私の顔は忘れて読んでください」といつも謝っています(笑)。

YouTubeの撮影場所は自宅のロフト。据え置きのカメラはもちろん作画の手元を映すためのもの
YouTubeの撮影場所は自宅のロフト。据え置きのカメラはもちろん作画の手元を映すためのもの

先生に「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」と言われ...

そもそも慎本さんが漫画家を志したのは高校3年生の時。漫画を描くことは好きで、高校時代には美術部に属していたが、あくまで趣味という位置付け。 美術大学を受験しようと予備校に通い、デッサンを学んでいたという。

ところが、夏休みに東京工芸大学のオープンキャンパスに行ったことで運命が変わった。

慎本:最初はデザイン学科を見るつもりでしたが、翌年からマンガ学科が始まると大学の入口で知りました。受講してみて「私はマンガが好きで、心の奥底では漫画で食べていきたいんだ」という気持ちを再確認して入学を決意したんです。

実際、入学してみると、マンガ学科の同期たちの絵が上手すぎて、中には出版社の担当編集者が付いている学生もいることに愕然としたという。

慎本:「私、ダメかもしれない」と思いました。大学1年生の秋にネームの段階で先生に見てもらったら「少女漫画が向いているんじゃないか」と言われました。それまで私は少年漫画を志望していたんですよね……でも、そこからは少女漫画一本に絞りました。春休みに漫画の本格的な制作を始めて、2年生の1年間は作品を描いては出版社に直接持ち込んで、編集者にアドバイスをもらって、賞に応募して……の繰り返し。2年生の最後に描いた作品「ほほえんで、ミドリ君」が受賞(第51回LMGゴールドデビュー賞)し、3年生の春にデビューが決まったんです。

1年間で描き上げた作品は5作に及んだという。

慎本:先生に「一作で頑張るよりも、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」と言われたんですね(笑)。その言葉が私にはしっくりきまして。描くのが早かったこともあって、高いクオリティを突き詰めて一作品描くよりも、とにかくたくさん描いてそのうちの一つでも評価されたらいいんじゃないかと。

大学生には自由な時間がある。だから、ちゃんと描く子とそうじゃない子に分かれてしまう。大学は漫画を描くためのサポートも環境も整えてくれます。編集者に漫画を見てもらうことだってできます。入学後の人生をどう切り開くかは本人のモチベーション次第。それは芸術学部ならどの学科でも同じことが言えると思いますね。

実にあっけらかんとロジカルに話す慎本さん。YouTubeの印象そのままだった
実にあっけらかんとロジカルに話す慎本さん。YouTubeの印象そのままだった

劣等感の果てに見い出す「自分の武器」

それでも在学中は劣等感に悩んだこともあったという。

慎本:私は自己肯定感が低いというか、大学時代も周りの子たちの才能に「ヤバい」と危機感を抱くタイプで、昔から「コアな作品」を描いている子が羨ましかった。 創作をしていると、知名度の高い人気作品を描くよりも「わかる人にしかわからない作品」や「自分にしか描けない世界観」がカッコよく見えるんですね。

でも、私はその子たちより「才能がない」と思っても諦めませんでした。絵の技術は今すぐ追いつけるものじゃない。 だったらキャラクターを磨いてその子より面白い作品をつくろうとか、面白い物語の展開を考えようとか。それを自分の武器にしようとしました。

デビュー後は人気小説家・誉田哲也氏の原作「アクセス」のコミカライズ(白泉社)を始め、「君といただきます」(同)など連載・シリーズが相次いで単行本化された。そして2012年にはポラリスCOMICSで「SSB-超青春姉弟s-」の連載がスタート。翌年にはテレビ東京系列でアニメ化された。

その後も「先輩!今から告ります!」(講談社)、「不祥事アイドル」(白泉社)、「好きです、となりのお兄ちゃん。」(フレックスコミックス)と連載は続き、現在は「推しが我が家にやってきた!」(同)と、断続的に作品を世に出している。それぞれの主人公も芸能人だったり、等身大の一般の若者だったりと多彩だ。

「AIが私の脳みそを読み込んで描いてくれたらいいのに」と笑う慎本さん
「AIが私の脳みそを読み込んで描いてくれたらいいのに」と笑う慎本さん

登場人物は「100の質問」に即答できる?

ここまでコンスタントに作品を描き続ける秘訣はどこにあるのか。

慎本:いろいろな考え方があるのですが、私は漫画を描くうえでキャラクターがすべてだと思っています。生き生きしたキャラクターがいれば、ストーリーはみんなが擦ってきた王道でもいい。なので、キャラクターづくりにすごく時間をかけます。

たとえば、知り合いなどの身近な人から考えることもあります。「その人の良さはどこにある?」と考えてからその良さをとことんまで誇張する。その誇張を突き詰めてみた結果、どこがダメなのかを考える。キャラクターに正反対の特徴を持たせてあげるのが大事ですね。「得意なことが一つあるけど、あとはまるでダメ」というキャラクターって愛されるじゃないですか。

キャラクターは漫画で描かないところまでしっかり作り込みますよ。生い立ち、家族構成、好きな食べ物……それらをしっかり組み立てるんですね。だから、私がつくったキャラクターに100の質問を当てられても、一瞬ですべて答えられると思います。

だから、私が考えなくても、キャラクターが勝手に動いてストーリーを紡いでくれるんですよ(笑)。今回はこういう話の流れにしようと思ったら、キャラどうしが勝手に会話を始めるイメージ。なので、頭の中で事前にストーリーを考えても、キャラクターを動かして描いてみると、全く違うストーリーになることもあるんです。

もうひとつ、慎本さんが意識しているのは「現在と未来」。時代とシンクロし続ける姿勢がそこにあるーー。

慎本:新しい作品を描く時は、今はどういう系統の男の子が人気なのか、どんな話が人気なのかを調べます。最近だと転生ものが人気だなとか。自分がどうこうより、みんなが求めているものを考えますね。もちろん担当(編集者)さんから教えてもらうこともありますよ。

私、漫画家ってエンターテイナーだと思っているんです。そのほうが長くやれるな、と。自分の好きなことを突き詰めて売れていく漫画家の先生もいますが、私はやっぱり読者を楽しませてワクワクさせたい。

時代の行く末を人と話すのも大好きなんですよね。科学の発展でどんな需要が生まれるのか、生活がどう変わるのか。時代の流れにはどうやっても逆らえないじゃないですか。だから私は未来をポジティブに捉えて、自分の創作活動を続けていきたいと思います。

文:佐々木 広人
写真:影山 あやの

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