「写真界は危ういぞ」の声に背中を押され...
日本を代表するプロ写真家団体である公益社団法人日本写真家協会(JPS)。1950年に写真家・木村伊兵衛らによって設立され、会員1200人を超える組織の会長が写真家の熊切大輔氏(54)だ。JPSで50代の会長が誕生したのは実に63年ぶり。組織が一気に若返った格好だ。
熊切 : JPSに入会してから委員の活動を続けていたところ、退任される野町和嘉前会長から「今までやってきたメンバー(委員)から誰かがやりなさい」という話になりました。 確かにJPSも写真業界も転換期を迎えていますし、変わるには良いタイミングでした。 多くの会員のみなさんから「今変えないと写真界は危ういぞ」と背中を押されてまして。 やれるうちに、やれるタイミングで。熟慮した結果の決断です。
相次ぐカメラ・写真誌の休刊、生成AIの隆盛、写真機材・機器の高騰……写真を取り巻く環境は決して芳しいものではない。
熊切氏がとりわけ意識しているのが、スナップ撮影に関する「逆風」だ。市民の肖像権意識の高まりに加え、2023年6月には盗撮行為を規制する性的姿態撮影等処罰法が施行。この時、メディアで躍ったのが「撮影罪」という名称だった。「この名称がストリートスナップの萎縮を増長するという危機感があった」という。
そこでJPSは同年10月、「撮影罪という言葉を使わないでほしい」と声明を発表し、熊切氏自身もX(旧Twitter)で積極的に投稿。<撮影は罪ではありません。「撮影罪」という安易な略称の使用が写真を生業にする人、写真愛好家の皆さんに嫌な影を落としています>というメッセージは、実に約9万6000回表示された。
熊切 : 撮影罪の名称に関しては本来、法案の議論の段階で声明を準備すべきだったので、「出すのが遅い」という批判があるのはおっしゃるとおりだと思います。 ただ、これまでのJPSはそういう事態に対してあまり発信してこなかった。世代が変わるのであれば、みんなに関わりのある撮影罪と生成AIの問題から手をつけねばならない。 大切なことはタイミングが遅くても伝えなくてはなりません。
熊切氏自身も街でスナップ写真を撮り続けている当事者である。都会に生きる人、建物、時には「忘れ去られたもの」に目を向け、時にはコミカルに、時には批評的な眼差しで「瞬間」を切り取る写真家なのだ。
