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国内外のアートシーンで活躍する卒業生たちを追った連続インタビュー企画。第7回はモバイルゲームのデザイナーとして活動中の大塚榛夏さん。ゲームとイラストが好きだった少女が人気ゲームのプロジェクトリーダーとして奮闘するまでの道のりを聞いた。

国内外のアートシーンで活躍する卒業生たちを追った連続インタビュー企画。第7回はモバイルゲームのデザイナーとして活動中の大塚榛夏さん。ゲームとイラストが好きだった少女が人気ゲームのプロジェクトリーダーとして奮闘するまでの道のりを聞いた。

第7回 リード3DCGデザイナー

大塚 榛夏 おおつか はるか

1994年生まれ。東京工芸大学では芸術学部ゲーム学科に在籍。株式会社サイバーエージェント入社後、株式会社Qualiartsへ出向。3DCG(3次元のコンピューターグラフィックス)を扱うデザイナーとして活躍しながら、リーダーとしてゲーム制作のプロジェクトを牽引している。

無類のゲーム好きがたどり着いた
デザイナーとリーダーの「二刀流」

人生の転換点になった大学の先生のアドバイス

「令和のメディアアーティスト」として活躍する同窓生へのインタビュー企画は、今回で7回目を迎えた。毎回、大学に進学した経緯から最近の活動までたずねていくうちに、実に面白いことに、みなさんに共通した「意外な」スキルに気づかされるのだ。

それは高度な表現スキルを持ちながら「プロデュース力」に長けていることである。

今回登場する大塚榛夏さんもそんな一人だ。

幼い頃からゲームで遊ぶことが好きだったという大塚さん。NINTENDO 64、NINTENDO GAMECUBE、ゲームボーイ、ゲームボーイアドバンスなど、1990年代から2000年代にかけて大人気だったゲーム機に慣れ親しんだという。

大塚:私はどちらかというとアクションゲームが好きで、初めて遊んだ「星のカービィ」もその一つでした。NINTENDO 64 は3Dが使われ始めた当時のゲームだと思うんですけど、3Dで描かれる世界観やキャラクターのかわいさに惹かれました。自分で操作したとおりにキャラクターを動かしながら、ゲームの世界を体験できることもすごく魅力的でした。最も熱中したのは小中学生時代で、放課後は帰宅してからずっとやっていた記憶があります。親にゲーム機を取り上げられたこともありました(笑)。

あとは好きなマンガのキャラクターなどの絵を描いていましたね。中学時代にはバスケットボール部や美術部に所属した時期もありましたが、あまり熱が入らなくて、結局、放課後は絵を描くか、ゲームをやるかのどちらかでした。

高校ではデザインやグラフィックを学び、東京工芸大学芸術学部へ進学。ゲーム学科で3DCG(3次元コンピューターグラフィックス)を学び、現在はモバイルゲームの3Dデザイナーとして、ゲームに登場するキャラクターの3Dモデルなどを制作している。

……と綴ると、トントン拍子で人気職業に就いた順風満帆の半生のように見えるのだが、葛藤を抱えていた時期もあった。

大塚:実は高校の頃まではイラストを描く仕事に憧れていたんです。ただ、周りに絵のうまい人がたくさんいて、この道を極めるのは厳しいと何となく思っていました。高校受験でも、一番入りたかった学科は倍率が高くて別の学科を受けたんです。

でも、大学入学直後に、工芸大の先生の言葉で吹っ切れました。「イラストを描ける人は世の中にたくさんいて競争も激しい。これから需要が増える3Dデザイナーを目指すのはどうだろう?」と。その話を聞いて「確かに」と納得して、3Dを本気で勉強しようと思いました。いま思うと、あれが本当に大きな転換点でしたね。

だから大学には真面目に通った。

大塚:ちゃんと学校に行って、授業に全部出て、課題をしっかりやって、教えてもらいました。学べるうちにちゃんと学んでおこうかな、と思いまして。語学や一般教養で苦手な教科もありましたが、それでも人並みにやりました。サボるという発想はなかったですね。

この12年で大きく進化した3DCGの世界

メディアミックスアイドルプロジェクト『IDOLY PRIDE』のアプリゲーム 。この人気ゲームの3Dキャラクターモデルの制作を手がけた(写真提供:QualiArts)
メディアミックスアイドルプロジェクト『IDOLY PRIDE』のアプリゲーム 。この人気ゲームの3Dキャラクターモデルの制作を手がけた(写真提供:QualiArts)

大学入学から約12年、3DCGというグラフィック表現の最先端に身を置いている大塚さんだが、大学時代と比べて3Dの環境は大きく変わったと話す。

大塚:3Dはゲーム業界のみならず、映像業界、国内外問わず、いろいろな技術やソフトが出ていて移り変わりも激しい。半年前の常識が古くなることもあります。勉強しなきゃいけない領域が幅広く、最新の知識にアップデートしていなといけないんです。

 そもそもゲーム機やスマートフォン自体が高性能化しているので、より豪華な表現が3Dで可能なんですね。大学時代に作っていたものとは比べものになりません。ゲーム機やスマートフォンができることが増えてくると、そこに合わせて「こういう表現もできるよね」という感じでアイデアもどんどん増えてきます。それに合わせてこちらも使いこなせるようになる努力が必要です。

表現の繊細さもレベルが上がっていて、今は現実とあまり区別がつかないレベルまでCGは進歩しているという。

大塚:たとえばゲーム空間の中の光と影。私が入社して最初に担当した作品だと、現実世界で言う太陽光や部屋の照明の動きや、キャラクターにできる影をリアルタイムで表現できませんでした。金属がライトに照らされてキラキラ光るのも、手描きで頑張って表現するしかなかったんです。ところが、最新の表現だと、光や影、反射の自然な変化を自動で表現できるようになったんです。これは表現上ではかなりの進歩ですね。

そんな大塚さんの学生時代の卒業制作も、当時では最先端だったようだ。

大塚:当時、3Dのキャラクターが大きいステージ上に投影されて、実際にライブをしているように見せるのが流行り始めていていました。今ではVTuberなどで見慣れているものですが、すごく感動して私も作ってみたいと思ったんです。

 そのときちょうどサイバーエージェント社から内定をもらってアルバイトをしていまして、そこでキャラクターをイチから作るところや、現場でいろいろ教えてもらった知識やノウハウを吸収できたんです。これは非常にラッキーでした。

ゲーム制作の現場を模擬体験できた大学講義

学生時代の経験が現在の仕事に役に立っていると話す大塚さん
学生時代の経験が現在の仕事に役に立っていると話す大塚さん

大学時代で印象に残っているのは、ゲーム制作の講義だったという。

企画を考えるプランナー、プログラミング担当のエンジニア、グラフィックス担当のデザイナーの志望者が3人1組になってゲームを制作するという、極めて実践的な講義だ。

大塚:実は私が身を置いているゲーム開発の職場でも、その三者が軸になって動くんです。あれはゲーム開発がどう動いていくかを模擬体験できるので、いい経験になりました。

 エンジニアとプランナーとデザイナー。目指すものは同じですが、やはり視点は違うんですよね。

 今一緒に仕事してる皆さんもそうですね。たとえば、プランナーは「会社でやる以上はビジネスというマネタイズ視点」だけでなく、「継続してやってもらうにはこういう体験が必要だよね」「キャラクターの魅力を伝えるためにこういう見せ方をしないとね」「継続してやってもらうためにゲームのストレスを出さないようにしないと」「世の中の流行を意識しないといけないよね」など、いろいろな視点を持ってきます。デザイナーの私たちではなかなか気づけないところを示唆してくれます。

 一方、デザイナーに必要なのは「より気持ちよくゲームを体験してもらう」こと。あとは、シンプルに他社のグラフィックスよりもいいものを作る。もちろん他社の表現もすごく研究して分析しつつ、自分たち独自の理想の表現に落とし込むことが必要です。

 こういう視点が違うメンバーが集まって知恵を出すことで、いいものが生まれると思うんです。職種が違うだけで意思疎通が難しいときもありますが、学生時代に経験できるのは非常にいいことだと思いますね。

クリエイターとして、プロジェクトリーダーとして...

3Dモデル制作を手がけた美少女育成バトルRPG「オルタナティブガールズ」(写真提供:QualiArts)
3Dモデル制作を手がけた美少女育成バトルRPG「オルタナティブガールズ」(写真提供:QualiArts)

学生時代の模擬体験は入社1年目から活かされた。

大塚:私の所属チームのリーダーの方が別のプロジェクトに移ってしまい、私がリーダーをやることになったんです。うちの会社は珍しくないのですが、一気にいろんなことを覚えなきゃいけなくなりました。

とはいえ、いきなり新卒のリーダー誕生である。

当時のチームは30〜40人。若手主体とは言え、当然ながら年上が多かった。予算管理や制作・納品のスケジュールの管理はもちろん、1年先のロードマップの作成、3D担当以外のメンバーや取引先への発注など、プロジェクトを仕切らねばならない。

大塚:やはりお金回りのことを覚えるのがすごく大変でした。無尽蔵にお金をかけたら良いものができるかもしれませんが、予算や人手には限りがあります。そこをどう調整するか。難しいですが、今でもずっと考えています。

時には外注先から納品されたモデルに対して、大塚さんがフィードバックする場面もある。そこは自身のスキルや経験も活きてくる。

大塚:どういう工程を踏んでこの形になったのかを知っていたほうが、適切で効率のいいフィードバックができますよね。

 プロジェクトの「マネジメント」と現場の「ものづくり」。この二つを両立できる強みが大塚さんにはあるのだろう。事実、現在は3度目のプロジェクトリーダーを務めている。

大塚:この年齢になってくるとマネジメント的な仕事も増えてきますよね。私はたとえ自分で制作しなくても、できていく過程や、誰かが作ったものを見るのも好きなんですよ。

 今チームには超ベテランの方もいます。その方のアウトプットを見て「こんな丁寧にやってくれるんだな」と感じ入ることもあります。常にいろいろなことを吸収できますし、いざとなれば自分で手を動かせばいいので。「いいとこ取り」と言うと変ですけど、私自身職人になりたいわけではないので、自分に合っていると思います。

そんな大塚さんに「リーダーに必要な資質」を聞いてみた。

大塚:ゲームはチームで作っているので、自分の領域以外にちゃんと目を向けること、気を配ることが大切ですね。視野を高くして、いろいろなところに興味を持ち、自分以外の人たちが何をやっているのかを知ることも大切です。たとえば、デザイナー職ならエンジニア職やプランナー職が開発に関わった経緯に興味を持つのも良いですよね。過程を知ることで、新たに見えてくることもあると思うので。

 もはや、この先が楽しみでしかない。

取材・文:佐々木広人
撮影:影山あやの

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