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国内外のアートシーンで活躍する卒業生たちを追った連続インタビュー企画。第12回はアニメーション学科ゲームコース(現・ゲーム学科)の第1期生、清宮大地さんだ。人気パズルRPG『パズル&ドラゴンズ(通称:パズドラ)』スタジオでチーフデザイナーを務める清宮さんに、学生時代の経験と仕事の現場について聞いた。

国内外のアートシーンで活躍する卒業生たちを追った連続インタビュー企画。第12回はアニメーション学科ゲームコース(現・ゲーム学科)の第1期生、清宮大地さんだ。人気パズルRPG『パズル&ドラゴンズ(通称:パズドラ)』スタジオでチーフデザイナーを務める清宮さんに、学生時代の経験と仕事の現場について聞いた。

第12回

清宮大地 せいみや だいち

1988年、神奈川県生まれ。東京工芸大学芸術学部 アニメーション学科 ゲームコース卒業。2007年に入学し、ゲームコースの1期生に。2011年にインテンスに入社。その後、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社(以下ガンホー)の『パズドラZ』などの2Dアニメーションやデザイン管理を請け負う。2024年にガンホーへ入社し、現在はチーフデザイナー。

ゲーム画面の向こう側で
生き続ける学生時代の学び

ゲームの持ち込みが禁止なら「作ればいい」

『パズル&ドラゴンズ』は、2012年のサービス開始以来、国内累計6300万ダウンロード(2025年5月時点)を記録する人気ゲームシリーズ。名称は知らなくても、ゲーム画面を一度は目にしたことがある人は多いだろう。

そのシリーズでチーフデザイナーを務めるのが、清宮大地さんだ。

幼少期から図工が好きで、レゴ(R)ブロックなど「作る遊び」に夢中になるインドアな子どもだった。

小学校高学年になると、『遊☆戯☆王』のカードゲームが流行し、休み時間は大いに盛り上がった。しかし、しばらくして学校への持ち込みが禁止に。

清宮:禁止になったら、じゃあ自分たちでカードを作ればいいと思ったんです。先生にお願いして厚紙をもらい、モンスターを描き、効果も考えて、オリジナルカードで遊んでいました。

「遊びたい」という気持ちが、いつのまにか「デザインする」行為に結びついていた。自作カードで対戦し、友達と見せ合いながら遊ぶうちに、自然と造形や世界観を考える癖が育っていったのだろう。

清宮:振り返ると、あの時に描いていたモンスターが、デザイナーを目指すきっかけのひとつだった気がします。

中学生になると『マジック:ザ・ギャザリング』に夢中になった。休み時間や放課後はカードで遊び、ノートには思いついたモンスターのアイデアを描きためていた。卒業アルバムの将来の夢には、すでに「ゲームデザイナー」と記されていたという。

こうした経歴を聞くと「黙々と絵を描く職人タイプ」を想像しがちだが、清宮さんには常に「誰かと一緒に何かを作る経験」があった。

小学生の頃から通っていた英語塾では、勉強だけでなく英語劇の発表が行われていた。小学生から大学生まで幅広い年代が集まり、台本を読み、演出を話し合い、舞台を作り上げていた。

清宮:年齢がバラバラでも、ひとつの舞台を作る一体感が好きでした。どう動いたら伝わるか、みんなで考えるのが楽しかったです。

高校ではダンス部に入り、大学でもダンスサークルへ。振付や人の動きを観察する習慣は、のちのゲームアニメーション制作につながっていく。

清宮:社会人になって、2Dのモンスターに動きをつける仕事をしたとき、ダンスで人の動きを観察した経験が役立った気がします。当時はYouTubeも今ほど発達していなかったので、DVDを巻き戻してコマ送りで見ていました。

チーム制作やマネジメントのルーツは学生時代に

学生時代に通っていたのは厚木キャンパス。通学には片道1時間半も要したが、「時間よりバスの混雑がとにかく苦手でした」と笑う
学生時代に通っていたのは厚木キャンパス。通学には片道1時間半も要したが、「時間よりバスの混雑がとにかく苦手でした」と笑う

高校卒業後の進路として、最初はゲーム制作の専門学校を考えていたが、父の勧めで大学進学を決めた。ゲーム制作を学べる大学を探す中で見つけたのが東京工芸大学だった。

2007年、東京工芸大学芸術学部アニメーション学科ゲームコースに入学。当時、このコースは立ち上がったばかりで、清宮さんは1期生となる。

1年生では、デッサンや3Dモデリングツールの使い方といった基礎を幅広く学んだ。ゲームコースにはデザイン、企画、プログラムの三つの分野があり、清宮さんはデザイン専攻を選んだ。

2年生からは、三つの専攻がチームを組み、ひとつのゲームを作り上げる。

だが、最初のチーム制作で苦い経験を味わった。

清宮:最初のチーム制作は、みんな初めての経験だったので、どう進めればいいかわからない。各自、自分の担当パートはなんとかやるけれど、お互いに何をやっているのか把握していなくて、完成形のイメージを共有しないまま進めてしまったんです。結果、大して面白くないゲームになってしまいました。この反省を踏まえ、その後は最初に「こういうゲームにしよう」という完成イメージを共有し、進捗をこまめに報告し合いました。議論をしながら形にしていく大切さを学べたと思います。

このチーム制作とコミュニケーションの経験は、後のキャリアで大きな支えになる。

初の「パズドラ」参加、家電量販店で興奮!

清宮さんが初めて制作に参加した「パズドラZ」のパッケージイラスト (C) GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.
清宮さんが初めて制作に参加した「パズドラZ」のパッケージイラスト (C) GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

2011年にインテンスへ入社。当初は「脱出ゲーム」の制作に携わり、背景の3Dモデリングを担当した。学生時代とは異なり、毎日同じ作業に向き合う大変さも感じた。

清宮:最初の1年はしんどかったですね。道を歩いていても、建物を見ながら「これをモデリングするなら……」と仕事モードになってしまって(笑)。

それでも「ゲーム制作の現場にいる」実感が支えとなった。

転機は入社2〜3年後。インテンスがガンホーのニンテンドー3DS向けタイトル『パズドラZ』の制作を請け負い、清宮さんは制作メンバーとして参加。2Dのモンスターにアニメーションをつけるパートを担当した。

清宮さんはアニメーションパートのリードとして、工程管理とクオリティチェックも任される。年上メンバーも多く、若手がダメ出しをするのは気を使った。

清宮:完全に手探りでしたが、大学時代のチーム制作の経験を思い出して進めました。締切から逆算して、人にヘルプをお願いしたり、調整したり。あのときの失敗がなかったら立ち回り方も違ったと思います。

『パズドラZ』が発売されると、清宮さんは家電量販店のゲーム売り場に向かった。

清宮:パッケージがどーんと並んでいて、専用ポップもあって、写真を撮りました(笑)。攻略本も買って帰りました。自分が関わったものが店に並んでいるのは、すごくうれしかったですね。

『パズドラZ』発売をうたう、家電量販店の店頭で(画像提供:清宮大地さん)
『パズドラZ』発売をうたう、家電量販店の店頭で(画像提供:清宮大地さん)

さらに、自身がデザインしたモンスターがゲーム内に採用された。

清宮:子どもの頃からモンスターを描いていたので、採用されたのは感慨深かったです。

その後も清宮さんは、下記の「パズドラ」シリーズに関わり続けている。

    • パズル&ドラゴンズ
    • パズドラZ
    • パズル&ドラゴンズ スーパーマリオブラザーズ エディション
    • パズドラクロス
    • パズドラバトル
    • PUZZLE & DRAGONS Nintendo Switch Edition
    • パズル&ドラゴンズ ストーリー
    • パズル&ドラゴンズ ゼロ

 

「パズドラ」が長く支持される理由をたずねると、清宮さんはこう話す。

清宮:当時のスマホゲームは、空き時間に軽く遊ぶものが主流でした。でも『パズドラ』はしっかりしたゲーム性とキャラクター性をスマホに持ち込んだ。家庭用ゲーム機で遊んでいた体験をスマホで味わえる作品だったのが大きいと思います。

大きな将来像より「目の前にある仕事」の先

スマートフォン向け最新作『パズル&ドラゴンズ ゼロ』のゲームプレイ画面から。横画面でもプレイ可能だ (C) GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.
スマートフォン向け最新作『パズル&ドラゴンズ ゼロ』のゲームプレイ画面から。横画面でもプレイ可能だ (C) GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

実は清宮さんは、企画やプロデューサーにデザイン案を提示するとき、ある工夫をしている。

清宮:要望に寄せた案と、少し自分らしさを加えた案など複数のパターンを用意します。どちらかだけにするとぶつかることもありますが、相手のプランを尊重した上で「こういうのも考えました」と提案すると円滑に議論を進めやすいんです。

デザイナーの「自我」だけを押し通さず、相手の要望を尊重しながらプラスアルファを提案する。清宮さんは、これを大学時代から自然に身につけていたのだ。

清宮:大学のときに、企画とプログラムとデザインの3つの視点を体験しておいて本当によかったなと思います。どれかひとつだけを見ていると、自分の領域だけを正解だと思い込んでしまいがちなんですけど、他の立場の大変さや事情も想像できるようになったので。

ところで、今後の夢や目標を尋ねると、意外な答えが返ってきた。

清宮:大きな将来像はあまり持っていません。目の前の仕事を丁寧に積み重ねていけば、その先に何かあるのかな、くらいの感覚です。

学生時代のように「徹夜で作ろうぜ」というテンションではなく、無理をしないペースで制作を続けていくほうが、結果的にいいものが生まれると考えている。

最後に、これから東京工芸大学を目指す人や、ゲーム業界に興味を持つ学生にメッセージをお願いした。

清宮:工芸大ではチームでゲームを作ることができます。そこで一度、失敗しておくことも大切だと思います(笑)。やはり、コミュニケーションの重要性や完成形を共有する大切さは、学生時代に体験しておいたほうがいいですね。

 

※ニンテンドー3DSのロゴ・ニンテンドー3DSは任天堂の商標です。
※Nintendo Switchは任天堂の商標です。

取材・文:佐々木広人
撮影:影山あやの

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